20XX年2月25日

2/17
670人が本棚に入れています
本棚に追加
/205ページ
『来週の日曜日、22時に "S" に来て』 大学の友人、佳穂(かほ)から呼び出しメールが届いたのは突然のことだった。そして今……私、立花(たちばな) 紗瑛(さえ)は目の前の建物を見上げ、ため息をつく。 シェアハウス "S"。3階建てのこの建物は、私と佳穂を含めた8人の大学生が暮らす家だった。 でも、それももう3ヶ月前の話。今は誰も住んでおらず、空き物件になってるらしい。 「ん?」 扉のノブに手をかけて、私は首を傾げた。 空き物件って、普通は施錠されてるもんじゃないの? 鍵もかけてないなんて不用心だなぁ。 そんなことを思いながら、ドアノブを回し、扉を開いた。 ……あ、もしかして佳穂が開けたのかな。ということは、もう来てるんだ。 中に入ると、懐かしい光景が広がっていた。共有スペースであるリビング、キッチン、ダイニング。そして、それぞれの個室につながる階段。 全部、あの頃と同じ……異様なほどに。少し不気味さを感じながらも、建物内を見回ってると、 「あれ? 紗瑛さんだ!」 後ろから聞こえてきた声。その主の姿を見て、私は思わず目を見開いた。 「え、優飛(ゆうひ)くん?」 加瀬(かせ) 優飛(ゆうひ)くんは、シェアメイトの1人だった男の子。私より1学年下の2年生だから……20歳かな? 赤茶の髪がよく似合う整った顔立ち、遠目でも目立つ高身長。彼の所属する経済学部でもファンが多い。 聞いた話では、告白する女の子が絶えないのに全部断ってしまい、"難攻不落の王子"とまで呼ばれているとか……。
/205ページ

最初のコメントを投稿しよう!