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『来週の日曜日、22時に "S" に来て』
大学の友人、佳穂から呼び出しメールが届いたのは突然のことだった。そして今……私、立花 紗瑛は目の前の建物を見上げ、ため息をつく。
シェアハウス "S"。3階建てのこの建物は、私と佳穂を含めた8人の大学生が暮らす家だった。
でも、それももう3ヶ月前の話。今は誰も住んでおらず、空き物件になってるらしい。
「ん?」
扉のノブに手をかけて、私は首を傾げた。
空き物件って、普通は施錠されてるもんじゃないの? 鍵もかけてないなんて不用心だなぁ。
そんなことを思いながら、ドアノブを回し、扉を開いた。
……あ、もしかして佳穂が開けたのかな。ということは、もう来てるんだ。
中に入ると、懐かしい光景が広がっていた。共有スペースであるリビング、キッチン、ダイニング。そして、それぞれの個室につながる階段。
全部、あの頃と同じ……異様なほどに。少し不気味さを感じながらも、建物内を見回ってると、
「あれ? 紗瑛さんだ!」
後ろから聞こえてきた声。その主の姿を見て、私は思わず目を見開いた。
「え、優飛くん?」
加瀬 優飛くんは、シェアメイトの1人だった男の子。私より1学年下の2年生だから……20歳かな?
赤茶の髪がよく似合う整った顔立ち、遠目でも目立つ高身長。彼の所属する経済学部でもファンが多い。
聞いた話では、告白する女の子が絶えないのに全部断ってしまい、"難攻不落の王子"とまで呼ばれているとか……。
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