第3章

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 「いただきま~す」  二人で手を合わせて食事を始める。 ここは、会社近くの定食屋「ゆるり」。わが社の第二食堂と言っても過言ではなく、平日に入るとほぼ8割がどこかで見た顔である。 都心の一等地、高層ビルの狭間にありながら、営業を続けて30年。60代のご夫婦が切り盛りしている。お値段は手ごろなのに郷愁をそそるおふくろの味が人気で、小池さんはたまに来ているらしい。 お弁当派の私も、ここの和食は大好きで、何度かランチに来たことがあった。 (それにしても・・・) 小池さんはしょうが焼き定食、私は秋刀魚の塩焼き定食を注文。綺麗な箸使いで美味しそうに食べる小池さんを正面に眺めながら考える。 (知り合って一ヶ月で、一緒に食事しているなんて。いくら同僚でも、私にはありえない急展開だなあ。)そんなことを思っていると「食べないんですか?」と声をかけられた。 「あ、ごめんなさい、ついボーっとしちゃって。」 「ハハッ。ぼんやりするの癖ですか?」 あ、笑った。小池さんは美男子ではないけれど、小さめの顔に一重まぶたの涼しげな瞳が魅力的だ。大きめな鼻は筋が通っていて、形の良い薄めの唇が男性にしては少し高めの声を紡ぎ出す。こんなに間近で顔を見るのは初めてだなあ、とちらちら顔を観察しては、秋刀魚の塩焼きをつつく。
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