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「お、おはよう……」  少女……ことりを見て、正臣はようやく自分が置かれた状況を思い出した。  友和が置いていったことりをどうして良いのか分からず、さりとて放り出す訳にもいかなかった正臣は、ひとまず店を開けている間、ことりを厨房の片隅に置いた椅子に座らせていた。  客はそんなことりに興味深く視線を向けたりしていたが、お互い相手の懐には踏み込まないというのがこの店での暗黙のルールだ。  正臣が向けられた質問にお茶を濁す素振りを見せると、客はスルリと自分から問いを逸らしてくれた。  一方ことりの方も客に言葉を向けることはなく、大人しく椅子に座したまま正臣のことを観察していたように見えた。  正臣的には等身大の人形を厨房に置いて仕事をしているような気分で、いつになく落ち着かなかったという印象が残っている。
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