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「朝はいつも、前の晩に店で出してた物の残りですませてるんだ。俺以外に食べる人間もいなかったし、割と適当で……」  ことりの隣を通り過ぎた正臣は、玄関脇の狭いスペースに無理矢理置かれた冷蔵庫に手を掛けた。  スッキリと片付けられた冷蔵庫の中には、皿に盛られてラップをかけられたおにぎりと大根菜の塩漬け、数種類の煮物が入れられている。  店で余ったダシを鍋に入れて取ってあるから、それで汁物を作れば二人分の食事は確保できるだろう。 「悪いな、残り物で」  おにぎりの皿と漬物の小皿を手に取って振り返る。  ことりは頭に両手を置いてフルフルと首を横へ振った。  なぜことりが両手で己の頭を押さえているのかは謎だ。  正臣はことりの不思議な行動に首を傾げながらも、両手に持った皿をことりへ差し出した。 「こたつへ運んでくれないか? 俺は汁物を作るから……」
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