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 ことりは無口だし、紡ぐ言葉は胸の中でしっかり考え抜かれているのか、口に出てくるのにも時間がかかる。  もしかしたら返事はないかもしれない。  そしたらダシに突っ込む現物でも見せながら再度問いかけるかと思いながら、ひとまず手前にある醤油に手を伸ばすが、正臣の手が醤油のボトルにかかるよりも早くその声は聞こえてきた。  ことりと交わした言葉はまだ少ないが、その数少ない言葉の中でも最速かつ力強いレスポンスに正臣は思わずことりへ視線を落とす。 「赤出汁」  漬け物の小皿を両手で持ったことりは、正臣に言葉が届いていないと思ったのか、再び答えを口にした。  真っ直ぐに正臣を見据える瞳にも、可憐な唇から紡がれる言葉にも、昨日初めて会った時の覇気のない姿からは想像もできない力強さを感じる。
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