39人が本棚に入れています
本棚に追加
____まるで、別世界ね。
満員電車に揺られながら、建ち並ぶ高層ビル達をぼんやりと眺めエミリーは思った。カバンの中に隠れている青緑色のタオルハンカチは、窮屈そうに顔をしかめている。
彼女が暮らしているこの国は、昔ながらの暮らしを大切にする保守派と、発展を求める先進派とで二分化され、同じ国だというのに地域によって雰囲気がガラリと違う。しかし両者は対立しているわけではなく、お互い行き来もでき、個々のニーズによって住み分けられているという感じだ。
とは言うものの、やはり若者は新しいものに敏感で、故郷を離れ先進派の中央区に越してくることが多い。仕事が中央区に集中してしまっているのも大きな理由の一つだ。かくいうエミリーも、今年親元から離れ、中央区に出てきたのだった。
『シュブヤン駅~シュブヤン駅~』
車内アナウンスが響き、エミリーはヤマテノン線を降りた。
「おい、エミリー」
カバンの中から小さな声がする。
「もう戻っていいだろ?」
「だめよ、シアン。今から会社に行くんだから。今日はずっとそうしてて」
チェッと、ハンカチが舌打ちする。
「なんでわざわざあんな窮屈な乗り物に乗るんだ?お前ならホウキで一飛びだろう」
「空を飛ぶには許可が要るのよ。いちいち申請するの大変だし」
「面倒な世の中になったもんだな」
そう言うハンカチは、102万年前から生きているらしいが、本当かどうかはエミリーにもわからない。
最初のコメントを投稿しよう!