例の「あの事務所」

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アヒルの子は「猫の事務所」を訪ねました。 尋ね人、捜し物、身辺調査…果ては表沙汰にできない仕事まで見境無く請け負うという噂のある事務所ですが、まともな神経の者なら前の通りを歩くことすら忌み嫌う、そういう類の場所です。まして鳥の身で訪れて生きて帰った者はいないとか。 しかしもはやアヒルの子は鳥の表社会では生きていけそうにないのです。追い詰められても仕方ありません。 「ほう、つまりお前さんは赤ん坊…いや、卵の時に取り違えられたんではないかと。そう疑っているんだね」 親切にも事務所の所長の黒猫が自ら応対してくれました。毛並みもつやもよい一見紳士な黒猫は、悪趣味なほどゴージャスなソファに寝そべっています。 アヒルの子にも座るよう勧めてくれたのですが、そこは鳥としての危機管理的な本能、とでもいうんでしょうか。アヒルの子は丁重に断って、いざとなったら窓から脱出可能な場所にしっかりポジショニング。 「そうなんです。というよりむしろ陰謀を疑っています。きっとどこかの王国の宰相が国の乗っ取りを企み、王子である私の卵をあんな貧民街のアヒルなんかに托卵したんです」
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