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っか! 「婆ちゃん?  女だらけの下宿先って…  俺、聞いて無いんだけど?」 「あら、そうかい?」 いや… ちょっとさぁ。 「別の物件は?」 思わずね。 「なっ!  一弘!  おまっ、なんて勿体ない事をっ!」 万年シングル男の護一兄貴が騒ぐんだが… 分かってんの? 女の中に男1人ってさ、結構大変なんだぞ。 「却下だね」 なんですとぉっ! 「ここ以外だと、高校へ通うには交通費が掛かるからねぇ。  無駄金は出せ無いよ」 くっ。 金銭的な事を持ち出されては、苦情もな。 ロハで部屋を借りている立場だ。 強くは言えんさ。 くそっ! 「それに、男衆は1人でも居た方が良いしね」 んっ? 今、変な事を言わんかったか? 「此処の管理人って藤堂さんだよね。  家族で遣ってたと思ってたんだけど?」 此処『若竹荘』には、昔に何度か来た事がある。 中学からはご無沙汰だったけどな。 藤堂さんは婆ちゃん達が不動産屋を始めた頃からの社員さん。 此処の管理人として奥さんが常駐。 っか、此処を家として暮らしてたんだよ。 娘さんが1人な。 当時は、家族ぐるみの付き合いがあったんだが… 俺は途中からな。 最後に此処へ来たのは、小学6年の頃だったか… 当時女子大生だった娘さんの名は、響香さん。 綺麗なお姉さんだったなぁ。 優しくて、お菓子作りが趣味だったけか? 料理の腕前も凄くてな。 今頃はコックかパティシエにでもなっているんだろ~なぁ。 そんな藤堂さん一家が住まう『若竹荘』 藤堂おじさんが居るなら、男はいるよね。 「ああ。  藤堂は定年で退職したよ。  今は家が紹介した物件で田舎暮らしさね。  時々海外旅行なんて行ってる様でね。  たまに土産なんぞ貰うわさ」 へっ? 「じゃぁ…  今の管理人は?」 寮母が居るってたよね? 「ああ。  一弘。  アンタも知ってる娘さね」 え~っと… どなたでしょう? 「響香ちゃんさね」 「響香ちゃん?」 んっ! 「響香姉さん!」 「そう。  藤堂の1人娘の響香ちゃんさね。  アンタを弟の様に可愛がってたのにさ。  中学になってピタリと現れなくなったって…  寂しがってたよ」 っ! いや、その… 響香さんに当時、淡い想いを… それで恥ずかしくなってなんて… 絶対に言えん!
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