そのに

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それから3日後、その日は綺麗な快晴の空でした。僕はいつものようにお店に向かいました。実は僕、お店の開店時間から30分間が一番好きなんです。朝は先輩2人と僕がカウンターに入っているんですが、閑散とした店内に常連さんが次々と店に入ってきて、店長の淹れたコーヒーの匂いと黒澤さんの香ばしいパンの匂いを店員である僕達がいち早く嗅げる場所にいる。それは、あまり優越感ということを感じたことのない僕にとって、この時間はとても大切な瞬間であり、この場所は絶対に無くしたくない居場所なんです。 そうだ、冒頭でちょっとだけ変化があったっていうのはこの日なんです。その全貌を今からお話ししたいと思います。 僕はその日、黒澤さんの頼まれ事を言付かりました。お店の近くのオフィス街の綺麗なビルの12階に店長さんの昔からのお友達がいるんですが、そのお友達社長さんなんです。何の会社かはわからないのですが、白くて細かい模型みたいなものが会議室みたいなとこに並んでたり、黒くて大きいほぼ正方形の鞄を持ってる人が多くて、何か設計図みたいなものを入れているのをちらっとだけ見たことがあります。それで、そこの会社の方々もよくお店に来てくれていて、皆さんが完全なるお得意様なのです。いつもは黒澤さんの休憩時間に一緒に行くんだけど、この日はたネットで取り上げられた当店で隠れファンの多いパニーニが売り切れてしまって黒澤さんがあたふたしていたので、僕一人で行くことになったのです。黒澤さん、今日ちゃんと休憩できるかな、僕はそればかりを考えながらビルのエレベーターホールに向かいました。
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