第1章 condition

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花火大会が開催される駅までは、電車内も満員で、こんなに混むと思わなかった私は、正直驚いた。 満員電車に乗ることなんて滅多にないから、挙動もタジダジ。 そんな私を見て、 「つかまっていいよ、ほら。」 と、先輩が腕を貸してくれた。 「すみませ…んっ!!」 手を伸ばした瞬間、電車が揺れて、私の体が傾く。 つかまろうとしていた腕は、逆に私の肩を抱き寄せて、体を支えてくれた。 「あ、すみません。ありがとうございます…」 驚いて咄嗟に離れてしまったけど、すぐに後悔した。 あんなに近くに理玖先輩を感じたことはなかった。 一瞬でも抱きしめられた事実に、ドキドキが止まらない。 悪くない、むしろ、最高です。 好きな人と乗る、満員電車は。 ニヤケまい、と必死に顔の筋肉と戦っていたら、頭上から声がした。 「だから、名前が葉月、なんだね。」 って。 「………、?」 意味が分からず首を傾ける。ふふ、と笑った先輩が続ける。 「8月生まれだから、名前が葉月、なんでしょ?」 「…あっ、」 なぜ、先輩は知っているのだろう。今まで、当ててくれた人なんて、親戚以外いなかったのに。 「…そう、です。」 8月は、日本語にすると「葉月」。それが名前の由来だ、と両親に教えられていた。 「他に、兄弟もそういう名前なの?」 「私、一人っ子なんです。せ、先輩は、兄弟いますか?」 「弟いる。2こ下だから、葉月と同じ。」 「そ、そうなんですか…」 ぶっちゃけ、この辺りの話はどうでもよくて。 名前の由来を当ててくれたことが、嬉しくて、嬉しくて。 そんな、動揺を隠そうと必死だった。 やっぱり、好きだ。 そう想わずにはいられなかった。
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