第1章 condition

12/17
前へ
/17ページ
次へ
「…正直言うと、」 しばしの沈黙の後、先輩が話し始める。 プライベートで、先輩から話し掛けてくれることはレアで、その度に私は、耳に神経を集中させていた。 「この花火さ、今日、アイツと来る予定だった。」 アイツ、というのはきっと、彼女さんのことで、 来る予定“だった”、という言い方になにか含みを感じた。 「去年、一緒来て、ここで花火見た。」 …っ、 だから、ここの公園を知っていたんだ。 本当は、今、先輩の隣にいるのは私じゃなかったんだ、ね。 「昼に、メールきて、ドタキャンされた。まぁ、アイツ仕事してるからね。」 あ、痛い… 彼女さんの話から、その存在がリアルに感じられ、ズキン、と胸に何かが刺さったように心が痛くなった。 ……何か、相槌をしなくちゃ。黙ってたら、涙が出てきちゃうよ。 「お、仕事されてる、なら、お忙しいんですね」 なんとか返事をして、鼻をすすった。 「ほんとに仕事なんだか……。定かじゃないけどね。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加