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「無論。」
私の問いに肯定を示すと、一間置いて左衛門佐殿は普段ならば続かぬ言葉を口にした。
「國主様の命とあらば、私共には断る理由はありませぬ故。」
飾り付けることなく、私の方へ教えのように向けられた言葉。私は当然を装って左衛門佐殿の言葉に相槌をうつ。
「御住職はいかがにございますか。」
続けて、狭川殿の斜め後方にいた住職にも確認をとった。話に加わっている時点で聞くまでも無いのだろうが、念には念をというものである。
「勿論お受けいたす所存に御座います。」
こっくりと頷いた後に頭を下げ、住職はそう言った。やり取りの始終を見定め終えた佐川殿は蛇の目を引っ込ませて顔を上げる。
「では、詳しい話に移りましょう。」
それから長い書状を読むように続いた狭川殿の話を簡潔にまとめると、孫次郎様を寺に幽閉して外界との交わりの一切を絶たせよという事であった。彼が家臣と連絡を取り合う事さえ許すなという。領地を取り上げたうえに何故そこまでするのだろうかと、伯父上に懐疑の心を抱きながら私は静かに狭川殿の話を聞いていた。一通りの話が終わると細かい取り決めに移り、住職が居る寺、―考山寺から香々見への報告書についてや、急を要する際の対処などを暫く話し合い、各々納得したところで解散となった。
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