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私は暫く目の前の船頭と水平線を眺め、後ろの左衛門殿を見た。左衛門佐殿は離れていく浜辺の方を見つめている。私は再び前を向き、入り江へ入っていく沢山の船の中の小さな一艘の船を眺めた。湾が広いうえ、國の中心に位置しているので湾の入り口には船が多い。船の種類もさまざまなので小さな船も大きな船も特にこれといって珍しくは無いのだが、なんとなくに小船が乗せている木箱を見つめ、中身はなんだろうかと考えつつ目を閉じた。 左衛門佐殿は家臣であると初めに言ったが、家臣である前に私の母上の兄であり、要は私の母方の伯父にあたる……。わけなのだが。伯父上とは呼ばさせてくれぬ為、私はいつも「左衛門佐殿」と他人行儀で呼んでいた。特に言及した事は無いが、左衛門佐殿は私の後見人でもあったので恐らくその役目を果たすために、左衛門佐殿なりの距離を保とうとしていたのだろうと思う。私の憶測を裏付けるように左衛門佐殿は私が元服して以来、厳しい態度をとることが増え、この日まで優しくしてくれる事など皆無になっていた。それ故にこの時は船へ乗る前の左衛門佐殿に面食らったと言えばいいのだろうか、不安になってしまっていた。 「左近様。」 船の通りが少ないところまで着き、船頭が私へ声をかける。閉じていた瞼を上げ、船頭の方へ首を傾げてみると船頭は続ける。 「須野様の事は覚えておいででしたか。」 「お名前は覚えて居たのですが……他はよく思い出せませぬ。」 「はは。お名前が分かったのなら充分に御座いましょうぞ。」 そこで左衛門佐殿を見てみれば、私の後ろで腕を組み小難しそうな顔をして、何やら考え事をしているようだった。船の上が一番落ち着くのか、左衛門佐殿は船でこうして考え事をしている時だけは気を何処かへやっている。部屋ならばそんな事は無いのだが、船の上だけは私が着物の袖でも引っ張らない限り気を遠くへやったままである。こちらの会話は耳に届いていないようだった。
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