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「浜で何かありましたか。」 「……、」 「いえ。お顔の色が浮かばぬようにございましたので。」 顔を向けたきり何も言わず弥助の顔を見つめ、目を見開いてぱちぱちと瞬きをしていると弥助はそう続けた。 「……分かりませぬ。」 教えて欲しいと訴えるように視線を再び陸に向ける。 「弥助。」 不意に後ろから声がして、名を呼ばれた弥助とともに私は声の主に顔を向ける。 「船を。」 左衛門佐殿に短く言われ、弥助は船員達に櫂を海に差し入れるよう指示を出す。急な休息の終わりに慌しく船員達が動く中、左衛門佐殿は深々とした柿渋色の瞳で私を静かに見据える。私も同じようにその瞳を覗いた。 「あれは国宗様と孫次郎殿の問題に御座います。本来、殿には関係の無い事。深く考えられませぬよう。」 弥助が指示の声を飛ばす中、左衛門佐殿は周りの物音にそぐわない程静かな声で私に告げた。今ならばその意味も分かったのだが、当時の私は忠告を受けているらしいこと以外には何も分からなかった。 「殿。」 船が動き始めて陸に視線を向けようとするとそれを遮るように左衛門佐殿は私の隣へ座る。 「どうか港へ着くまでお休み下さいませ。」 膝の上へ来るよう促されて、私は素直に従う。一人で座っているときには寒くて眠気など一切顔を出さなかったのだが、船の揺れから守られて左衛門佐殿で暖をとる内にいつの間にか私は眠りについていた。
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