セキジツ

追憶

そっと目を閉じれば、瞼の裏に過ぎた景色が甦る。

―鶴壽丸どの。

眉を下げ、口の両端を拙く吊り上げた彼の顔に、まじないの様に私の名を口にしたその声色もまるで昨日の事のように浮かぶ。私が今の齢の半にも満たぬ頃の事だと言うのに。故郷を離れる前に彼の元へ足繁く通った日々の一つ一つをつい先日の事のように在り在りと思い出す事が出来る。

当時幼くも元服していた私を「鶴壽丸」と頑なに幼名で呼び続け、かつ人への甘え方が分からずにいた私を存分に甘やかしてくれた人。彼が居たのは十年以上も前の昔の話。

群れに置き去りにされた秋の渡り鳥のように寂しく朽ちていった彼と考山寺で過ごしたあの日々は、今となっては遠い昔の話。

とおいとおいむかしのはなし。