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彼と初めて会った日のことを私は覚えていない。そのとき私の父や兄がいらしゃったということは、私はまだ赤子だったのだから覚えていない方が自然だろう。彼が考山寺へ閉じ込められる前にも何度か会っていたような覚えはあるものの、考山寺以外の場所で私が彼と会ったと言うことをはっきりと覚えているのはたったの一度だ。 国宗の伯父上に呼ばれたのだったろうか。その日私は左衛門佐という家臣に連れられ、当時國を治めておられた伯父、国宗宮内少輔様の居城へ参じていた。 明朝に空を見れば、雲は数えるほどしかなく波もゆったりとしていたので、私はその日いつものように船に乗り伯父上の元へ向かったのだったろう。伯父上の城は湾の入り口に位置していたため、私は海が凪いでいる時には自分の城に近い港から船に乗り、伯父上のいらっしゃる城の近くまでゆくのが常であった。波と風がよければ一刻といくらかほどで伯父上のもとへ着く。この日は確か風があまり吹いてはいなかったので、港を出てから一刻半ほどかかって城の下の浜へついた。そのまま浜に船を待たせて、私は左衛門佐殿を隣に本丸を目指して歩く。階段を上る際には左衛門佐殿が私の後ろを歩き、一段一段を上っていった。本丸の入り口にある門まで着いたところで案内役の出迎えを受け、御殿に入り私たちは応接間へ通される。 「大殿。香々見様、並びに中小田様が参られました。」 案内役が少し襖を開き、中に居られる伯父上に声をかけると「入られよ」と声が返ってきた。私は「失礼いたします」と襖の前で一礼をしてから部屋へ上がり下座へ座る。左衛門佐殿は私のやや後ろ隣へ座った。
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