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「あの、ごめんなさい……ですわ。毎回こんな……」
しおらしい言葉に顔を上げると、彼女はしゅんとしていた。
珍しいこともあるものだ。
「いいんだよ、別に。お前が気に病むことなんて何もない。それに……半分は僕のせいなんだ」
彼女がこんな状況に追い込まれた理由。それは、転校したからというのも大きな要因の一つだった。
そしてそれは他ならぬ、僕が引き起こしたことだ。
いまさら謝ってもどうにもならない。喧嘩の援護と手当は、僕ができる精一杯の罪滅ぼしだった。
「そんな……お姉さまのせいだなんて、私はそんな風に思ったことは一度も無くてよ? お姉さまはいつも守って下さるし、精一杯のことをして下さってるではありませんか。私はそれで十分過ぎる程ですわ。だからどうか気に病まないで。お姉さま」
そう言って、何故か頭を撫でられる。くしゃくしゃと犬でも撫でるように。
小二の妹に気を遣われる高校生なんて情けないけれど、優しい言葉が素直に嬉しかった。
なんて、増々情けないけど。
僕は妹を抱き上げて、ぎゅうっと抱きしめた。
「……不甲斐ない姉で申し訳ないよ」
「何を、いまさらですわ。お姉さまの不甲斐なさには、もうとっくに慣れていますわよ」
晴れ渡る五月の下旬。
あどけなく笑う彼女に、初夏の光が柔らかく反射していた。
その平和な光景に包まれて、僕はまだ予想さえもしていなかった。
この幼い妹に、この後どんなこと起ころうとしていたかなんて。
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