第1章

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 全員に向けて撃ち終え、攻撃をかわしてさっと脇へ退く。そして次の攻撃に移ろうとし始めるころに、敵は自分が今どんな状態にあるのかやっと認識することとなるのだ。 「……ん? うわっ、何だよこれ!!」  そう言って愚かなる敵は、びしょびしょに濡れた自分の股間を見下ろした。その状態では、ろくろく街を闊歩することすらできないだろう。  僕が撃ったのは、子供用の水鉄砲だ。それを股間に向けて撃てば、ちょうどお漏らしをしたみたいになる。  恐怖の偽しょんべん小僧攻撃。 「ふん、その小汚い短パンを刈られなかっただけ良いと思え」  前を押さえて去って行くマルチーズに捨て台詞を吐き、その憐れな負け犬姿を存分に拝んでから妹の方に向き直る。 「さてと……立てるか? おぶろうか?」 「……お姉さま、喧嘩の戦法が下品すぎますわ」 「…………」  助けてもらったにも関わらず、恩知らずな妹だった。  まだ小二だし、仕方ないか。うん、そう思っておこう。 「生意気を言うな。小学生を殴るわけにもいかないだろ」 「でももっと他の戦い方がありますわ」 「例えば?」  その問いに、妹は自信満々に答えた。 「女子トイレに逃げ込む、ですわ」 「…………」  発見。うちの妹はおつむまでモルモットのようだ。  僕は妹のこめかみを拳で挟み、ぐりぐりとねじって言った。 「それは戦法じゃなくて、一時的な退避手段だろうが! それにそんな方法は中学生以上じゃ通用しないんだぞ!!」  しかも小六相手では限りなくグレーである。まさかこいつは僕が来るまで、その戦法を使っていたのだろうか。  妹が傷に響くと喚き始めたのでぐりぐりから解放してやり、抱えて家に連れ帰った。  僕の部屋まで連れて行き、例によって分かりやすい場所においてある薬箱を持ってきて手当を始める。  膝や顔に付いた泥を拭いて、消毒液で血を拭ってから絆創膏を貼る。痣には軟膏を塗り、場合によっては湿布を持ってきて貼る。  毎度のことなので、もう慣れたものだ。 「……お姉さま」 「なに、遥」
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