第1章

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「あの、ごめんなさい……ですわ。毎回こんな……」  しおらしい言葉に顔を上げると、彼女はしゅんとしていた。  珍しいこともあるものだ。 「いいんだよ、別に。お前が気に病むことなんて何もない。それに……半分は僕のせいなんだ」  彼女がこんな状況に追い込まれた理由。それは、転校したからというのも大きな要因の一つだった。  そしてそれは他ならぬ、僕が引き起こしたことだ。  いまさら謝ってもどうにもならない。喧嘩の援護と手当は、僕ができる精一杯の罪滅ぼしだった。 「そんな……お姉さまのせいだなんて、私はそんな風に思ったことは一度も無くてよ? お姉さまはいつも守って下さるし、精一杯のことをして下さってるではありませんか。私はそれで十分過ぎる程ですわ。だからどうか気に病まないで。お姉さま」  そう言って、何故か頭を撫でられる。くしゃくしゃと犬でも撫でるように。  小二の妹に気を遣われる高校生なんて情けないけれど、優しい言葉が素直に嬉しかった。  なんて、増々情けないけど。  僕は妹を抱き上げて、ぎゅうっと抱きしめた。 「……不甲斐ない姉で申し訳ないよ」 「何を、いまさらですわ。お姉さまの不甲斐なさには、もうとっくに慣れていますわよ」  晴れ渡る五月の下旬。  あどけなく笑う彼女に、初夏の光が柔らかく反射していた。  その平和な光景に包まれて、僕はまだ予想さえもしていなかった。  この幼い妹に、この後どんなこと起ころうとしていたかなんて。
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