7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
今日も私は、病院で車椅子を押していた。
「お父さん、もう朝ご飯食べたのかしら?」
車椅子に掛けるこの女性は、どんな時も夫の事を心配している。
「うん。
スクランブルエッグ、今日も美味しいって言ってた……。」
そう私が答えると、彼女は安堵に満ちた笑みを浮かべた。
そして……――――――
「真理子はちゃんと、授業に集中しているかしら?」
次に心配するのは娘の事。
家から遠く離れた小学校へ通い、日々勉強を頑張っていた1人娘。
その名前は“真理子”。
「真理子は……、いつもお母さんの事を思ってるよ。」
ニッコリと微笑み、投げ掛けられた問いに合致しない返答をした私。
そんな私の方を振り返り、彼女は首を傾げこう問いを重ねた。
「あら……。
貴女は……、どちらさん?」
もうこの問いは聞き慣れているはず。
だけど、返答する度少しだけ胸が痛くなった。
おもむろに、腕に嵌めた虎目石のブレスレットに視線を向ける。
最初のコメントを投稿しよう!