5秒間の母娘

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今日も私は、病院で車椅子を押していた。 「お父さん、もう朝ご飯食べたのかしら?」 車椅子に掛けるこの女性は、どんな時も夫の事を心配している。 「うん。 スクランブルエッグ、今日も美味しいって言ってた……。」 そう私が答えると、彼女は安堵に満ちた笑みを浮かべた。 そして……―――――― 「真理子はちゃんと、授業に集中しているかしら?」 次に心配するのは娘の事。 家から遠く離れた小学校へ通い、日々勉強を頑張っていた1人娘。 その名前は“真理子”。 「真理子は……、いつもお母さんの事を思ってるよ。」 ニッコリと微笑み、投げ掛けられた問いに合致しない返答をした私。 そんな私の方を振り返り、彼女は首を傾げこう問いを重ねた。 「あら……。 貴女は……、どちらさん?」 もうこの問いは聞き慣れているはず。 だけど、返答する度少しだけ胸が痛くなった。 おもむろに、腕に嵌めた虎目石のブレスレットに視線を向ける。
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