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ぴたり。 彼女が空けた窓から香る、砂糖の甘さに釣られて窓枠に手を乗せてみた。 まさに効果音通りの着地。 「でも、いらないならいいですっ……てか、絶対いらないですよねっ、先生みたいなストイック な人が糖分なんか摂取するわけーー」 「いる」 「え?」 実は、殺されるかもしれないという妙に説得力のある恐怖のせいで目を瞑っていた彼女だったが、予想外の返事にそっと開けてみると。 「俺っ、甘いものめっっちゃ好き!! マド レーヌなんて最高に好きだ……!」 ガラスの靴の持ち主を見つけた時の王子様のように瞳がきらきらと輝きーー実は初体験なビッチのように頬は赤らめーー己の欲に逆らえない野性動物のように涎を垂らしーー堅物で通っている男が、ものの見事に一介の生徒の罠に掛かっているではないか。 ーーあぁこうなってしまえば、リーマンショックの時のように修正は当分不可能だろう……。 光希は甘いものが大好物で、初めて会った時も栗鼠のようにスイーツをたらふく食していた。 それから十年ばかり欠かさず食べてい る姿を見ているので、正真正銘の甘党だ。 普段は強面な男の、そんな魅力的なギャップを見せられたら、俺だけでなく……。
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