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遮光カーテンで光を遮った暗い部屋。そこに一人の男子高校生が横たわっていた。床には幾つかの魔方陣、散乱した本と一眼レフのカメラ、そして無数の写真。足元にあるスマートフォンは光を放ち震えているが、彼はそれを無視した。暗がりの中で分厚い本を抱き抱えながら彼は虚空を見つめる。
「ああ……つまらない世界だ」
彼はたった十数年生きただけの世界に飽き飽きとしていた。
きっと、今ここで彼が居なくなったとしても、世界の歯車は滞りなく回り続ける。ちょっと困る人はいるかもしれない。でもそれは、いとも簡単に穴埋め出来てしまうもので。 その事実が彼には酷く残酷に思えたのだった。
散らばった写真には様々な人物の表情が写されていた。満面の笑み、真剣な表情、喜びのあまりトロフィーを片手に泣き崩れる姿。眉間にしわを寄せこちらをいぶかしむ表情、悲嘆の顔、憎しみをカメラの持ち主に向ける顔、恐れ戦きこちらを見ている顔。彼はこれだけの感情を目にし、自身に向けられてきた。けれど、それでも満たされることはなかった。
たとえ借り物の力で誰かに見てもらえたとして、それが何になるだろうか。誰かが彼を振り向いたとして、それは彼を見ているのではなく彼の持つ何かを見ているだけだった。 いつだってそうだった。誰も彼自身を見てはいなかったのだ。 たった一人を除いて────。
ふと彼が手に取った1枚の写真は、カメラを見つめながら照れたように笑う一人の少女の写真だった。金の鮮やかな髪が、風に煽られてなびく。空色とのコントラストが綺麗だった。 ただ、そんな彼女が今の彼の部屋を見たらどう思うだろうか。彼が憎しみと悲嘆と恐怖を向けられた。向けられるような事をした事実を目の当たりにしたら。歪んでしまった彼の性根を暴かれたら。きっと、軽蔑されるだろう。こんなやつ、居なくなって清々したと思われるだろうか。
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