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「お前が旅に出たいと感じた最大の理由は何だ?
何も城での生活が退屈に感じただけではなかろう。」
「八年前に声を聞いてからです。」
バグレストの問いにエステリアはそう答える。
当然それだけでは彼も理由が分からない様子だったが、それを聞いた大臣は何かを思い出したのか顔色を変えた。
「姫様、もしや八年前に見えた謎の光から聞こえた声ですか?
魔力を分けてほしいと言ってきたという。」
「ジークア大臣、知っているのか?」
ジークアと呼ばれた大臣はバグレストにそう言われた。
ジークアは彼の言葉に頷く。
「はい。
声は私も聞いていないのですが、光に向けて魔力を送るのは共に行いました。」
「そういうことはすぐに報告してほしかったな。」
「申し訳ありません。」
この出来事があってから八年経った今になってようやく報告。
バグレストが怒るのも無理なかった。
彼は申し訳なさそうに頭を下げているジークアを横目にエステリアの方を向いた。
「それで、旅に出たいというお前の意思と八年前に聞いたというその声には何の関係性があるのだ?」
「あの声を聞いて私は外の世界に強い興味を持ったのです。
城に閉じ籠っている私でもいる外の世界に触れることが出来ましたので。
先に言っておきますが、止めても聞きませんよ?」
エステリアはそう言いながら実の父であるバグレストに真っ向から自分の意思を伝えるのはいつ以来だろうと感じていた。
少なくともここ数年はこうした行為をした記憶がない。
何故なら城の外に出してもらえない理由をエステリア自身も把握しているからだ。
案の定そこをバグレストに突かれる。
「エステリアよ、お前がこの城から外に出していない理由を理解している上でそう言っているのだな?」
「はい。
理由は私も理解しているつもりです。」
エステリアが城から出してもらえない理由。
それは彼女が外に出て危険な目に会わないためだ。
フリジアーツは今まで魔物に脅かされていた時期はなく安泰を保ってきたが、いつそれが崩れるか分からないと感じたバグレストはエステリアが成人するまでは城の外には出さないと決めたのだ。
そのためエステリアはこの年になっても学校へ通ったことがない。
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