106人が本棚に入れています
本棚に追加
「アキ。愛してる」
「・・・ありがとう。正司さん」
「返事は? 」
「俺も・・・・・・・ごめんなさい」
「アキ? 」
「裏切って・・・ごめんなさい・・・悪いことして、ごめんなさい」
泣いてはいなかった。ただ静かに、反省の言葉をこぼす。
「アキ」
正司が両手を広げた。
立ちすくむアキが吸い込まれるように正司に抱きついていった。正司の首に腕を絡ませ頬と頬を寄せ合うと、正司はアキの背中を優しく抱き寄せた。
「僕の一生の恋人、君をずっと愛してるよ」
「俺も・・・愛してます。正司さん」
「僕の骨はアキが拾ってね」
「ヤダっそんなのヤダっ」
「拾ってくれないのかい? 淋しいなぁ」
「やだっ死んじゃやだよ正司さんっ」
「ふふ。考えたことなかったからびっくりしたのかな? アキ。生きているものはいつか死ぬんだ。だから愛するものを裏切っているヒマなんてないんだよ。いつ時間切れになるかわからないんだからね」
「正司さん・・・」
「さぁ。ベッドに行こう。君をたっぷりと愛してあげる。忍のことなんか夏の夜の夢だったと思えるくらいにね」
長いキスの後、抱擁を解いて手を繋いでベッドルームへと向かう。
「俺、正司さんに出会えて本当に良かった」
「僕もアキに出会えたことを感謝してるよ」
「本当に? 」
「もちろん」
「よかった」
それはアメリカに行く前の無邪気なアキの笑顔だった。
そして寝室のドアがゆっくりと閉められた。
「五日間あっという間やったなぁ」
「そうですね」
成田空港ターミナル、宗助がアメリカに帰る日。
「先生ありがとね。送ってくれて」
「おう」
「・・・・・」
「どうした、楽人」
「先生達。何か、あった? 」
「!?」
「バッ・・・」
宗助が楽人の口を塞いで数メートル先のインフォメーションの陰に拉致する。
「どうしたの。宗ちゃん」
「バッカだなぁ楽人。見てわかんないのかよ。先生達も俺たちと、同じ」
「え? え? え~~~~っ」
「し~っ!」
「さ~お~と~め~」
「うわっ矢代センセ」
「そうなの? 先生」
「うん? まあ、せやな」
ちょっと困ったように矢代が頷く。
「そうなんだぁ」
頬を上気させた楽人が言えば。
「おめでとう先生」
と宗助が右手の握りこぶしを出す。
「なにがや」
「やっと念願叶ったんだろ? 」
「まあな」
矢代は大きな右手の握りこぶしをコツンとぶつけた。
最初のコメントを投稿しよう!