第1章

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「そうは見えませんでしたけど」 「まぁ聞け」 矢代は時間をかけて自分の若かりし頃の話をして聞かせた。 「じゃあ若い頃さんざんアキさんを利用したから今回の誘いを断れなかったっていうんですか」 「まぁ。そうや」 「他意は。無いんですね」 「他意? 」 「未練があるとか復縁したいとか」 「あるわけないやん。俺には潤がおるのに」 ポッと雨宮の頬が染まる。どうも直球に弱いらしい。 「潤」 「はい」 「このまま俺んちでええよな」 「・・・はい」 「ええコト習ってきたから」 「え? 」 「まかしとき」 「潤。一緒に風呂入るで」 「矢代先生とじゃ狭くて大変ですよ」 「大丈夫。俺ほとんど浸からんから」 「? 」 いったい何を言い出したのかと思ったが仲良く風呂に入れるのならそれも良いかもしれないと雨宮は服を脱いで風呂場で待つ、すると全裸の矢代がジェルを片手に浴槽に入ってきた。 「矢代先生? 」 「潤、自分で出来んゆうたやろ。せやから、俺がやったるわ」 「でも・・・」 「潤・・・。俺、潤とひとつになりたいんよ。潤はどうなん? 」 「俺も・・・矢代先生に抱かれたいです」 見つめあう瞳は優しく微笑みあい合意の意思を確認する。 「ほな、いってみよか」 「・・・はい」 矢代は雨宮を手取り足取り優しく誘導する。 「そこに手をついて潤、力ぬいて、あぁ、ええで」 「んっ・・・・あっ・・・なかっ・・・」 風呂場には優しい言葉と気遣いがこだましていた。 三十分ほど経過しただろうか。 「やるなー、俺のゴールドフィンガーも」 「なんか。もうイクの我慢するの大変でした」 「イってもかめへんのに」 「初めてはやっぱり矢代先生でイキたいから」 「殺し文句やな。ほな」 水気を拭いた雨宮をひょいと横抱きにして、敷きっぱなしにしていた布団へと横たえる。 「潤」 「はい」 「もう待てへん」 「はい、・・・俺も」 天にも昇る気持ちだった。 風呂でされたマッサージが前戯のようなものだった。 すでに体も心も準備は出来ていて、あとは一気に駆け上がるだけだった。 なんども押し寄せる波に意識が霞むけれど、これが彼との一体感なのだと初めて雨宮は理解した。 「矢代せんせ」 「どないした。潤」 嬉しそうに微笑む恋人の顔、大好きな目尻のしわ。 「すごい・・・気持ちよくて・・・コレ・・・やめたくない・・・です」
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