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桃子と壮太は、階段をおりた。
やるべきことが明確になり心の中が整理されたからか、桃子の目には行きと帰りの風景が少し違って見えたきがした。
「き、金曜日は何してたんですか?」
桃子の口からそんな言葉が出た。
別に杏子のことをききたかったのではない。桃子の心にいいわけじみた思いが浮かんだ。
「金曜日?うーん、杏子さんが車のバッテリーがあがったとかで、歩いて出勤してたから、家まで送っていったくらいかな。そういえば春野たちは飲み会だったの?コンビニの横にいただろ」
「……はい」
――完全にばれてた。
「杏子さんが気がついて『何してるんだろ?』っていってたよ」
黒田杏子は牧野かまどよりも一枚上手だった。帰ったらちゃんとかまどに報告しなければ、と桃子は思った。
ばればれな探偵ごっこが照れくさくて、桃子は話題を変えた。
「あの、……蒼井さんは、さっき何をお願いしたんですか?」
誰か個人的に想いを寄せてる人のことでも、祈ったのだろうか。
そう思うと少し寂しくなった。
壮太は優しい瞳で桃子を見た。
「春野たち全員が、悔いなく卒業すること」
あ――。
桃子は、数秒前の自分が恥ずかしくなった。
――私は、自分のことばっかりだ。
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