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桃子は一人教場に戻ると、教場の椅子と机をどかし、少し広いスペースを作った。
これで自主訓練のための準備完了だ。
本当は誰かに状況を出してもらいたかった。しかし、皆自分の勉強で忙しいから邪魔してはいけない、と桃子は思っていた。
自分が頼られるのはいいが、人に頼るのは相変わらず苦手だった。
「負傷者発見!……相手が驚かないように、可能であれば足元から静かに近寄る」
桃子は誰もいない教場の片隅で、ぶつぶついいながら体を動かした。
突然、教場の扉が開いた。
桃子はびくりとして、動きを止めた。
誰かに見られたと思うと、恥ずかしかった。
桃子は何事もなかったように、扉の方に目をやった。
「一人で、何こそこそしてるの?」
そこには腕を組んだかまどがいた。
続いて、愁哉とゆいも部屋に入ってきた。
「あれ?みんな食事に行ったんじゃ……」
「ごまかさない。何してたの?」
「……訓練を、少々……」
かまどに嘘をついたところで、すぐに見破られてしまうことを桃子は知っていた。
いつもは黙っている愁哉が口を開いた。
「おまえなあ、水臭いぞ。仲間だと思ってるのは俺だけか?やるなら声かけてくれよな」
ゆいもガッツポーズを作って桃子を見た。
「あの、私ができることは少ないかもしれませんが、一緒にやりましょう」
かまどが桃子の背中をばしっと叩いた。
「まったく一人でこそこそしてんじゃないわよ。一緒にやるの?やらないの?」
皆自分のこともあるのに――。
桃子は胸が詰まる想いでいった。
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