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もう諦めて、 松岡主任に従おうかと思いかけたその時、 海翔の悲しそうな顔が浮かんできた。 「…主…任、ヤッパリ…乗れません。ごめん…なさい。 わ…たし、…わ…たし、 彼と、約束……してて、 ご、めん、……なさっ……ふぅ…」 さっき、 女の人とキスをしてたであろう場面を見たばかりなのに……。 それでも、 どこかで、 私のことを『愛してる』って言ってくれた海翔のことを信じたい。 何かの間違いであって欲しい。 って願ってる自分が居ることに気づかされた。 私、こんなに、 海翔のことを好きだったんだ。 どうしようもないぐらいに……。 人を好きになるって、 理屈じゃないんだって、 改めて思い知らされた瞬間だった。 そう思ったら、 余計…自分のことが不憫に思えてきて、 涙が後から後から追いかけて来るように溢れてきて、 止まらなくなってしまって。 立ち尽くしたまま、 両手で顔を覆い隠して泣くことしか出来ない。 「そんなに、謝るなよ。 もう無理強いしないから。な?」 そんな私の頭を優しく包み込むようにして、 胸に抱き寄せて撫でてくれる松岡主任。 泣いても困らせるだけだって解ってるのに……。 主任の腕に抱きしめられたまま、 泣きながら謝り続けることしかできなかった。
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