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「まさか、高岡の男がお前だったとはな。 言っとくけど、偶然見かけて、誰かさんが泣かした高岡を放って置けなかっただけだ。一応上司だからな。 もう、帰るから心配すんな」 そう言って、 松岡主任が車に乗り込もうと歩き出した。 まるで、この場から逃げ出すようにして。 「待てよ! 前にも芽依を送ってたのって、お前なのか?」 そこへ、 再び海翔の低い声が響き渡った。 「あぁ、遅くなるときは送ってた。それも上司としてだ」 「本当に?」 更に念押しするように聞く海翔。 「あぁ、本当だよ。 あんまり嫉妬してると嫌われるぞ?」 海翔の方へ振り返って、 フッと可笑しそうに笑いながら言う主任。 「ウルサイ! お前に言われる筋合いはない!」 主任の言葉に怒って、 それをそのままぶつけるように言い返す海翔。 「……そうだな。 そうだ、良いこと教えてやる。 高岡にとって俺は、"お兄ちゃん"なんだと。 高岡は、俺にとってもお前と同じで弟みたいなもんだ」 え? 弟って、主任が海翔のお兄さん? それで、険悪な空気が漂ってたんだ。 お父さんのことを良くは思っていないだろう海翔にしたら、 会いたくもない相手だろうから。 「お前を兄さんなんて、思ったことはない」 「ハハッ、解ってるよ。仲直りしろよ」 主任は、 そう言うと車に乗り込み帰っていった。 でも、 まさか主任がお兄さんだなんて、 ただただ、驚きでしかなかった。
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