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主任が帰ってからも、 余りの驚きに放心していると、 「芽依、泣かして、ごめん」 後ろから優しく包み込むようにして抱きしめられた。 その瞬間、 頭に浮かんでくるのは、 キスをしてたであろうあの場面。 「……あの人と…キス、したの?」 また、泣きそうになるのを堪えて聞いてみた。 「……不意打ちでキスされただけだ。俺からはやってない」 すると、 海翔からは、 それを肯定する言葉が返ってきた。 まるで、 自分は悪くないって言ってるように聞こえた。 きっと、 海翔は、あの人のことを何とも思ってないのだろう。 でも、 少なくとも、 あの人は海翔のことを好きだって、そう感じたから、どうしても不安になってしまう。 大人の関係だったんだろうし。 チラッとしか見てないけど、とても綺麗な人だったし。 そんなこと何も解ってないだろう海翔にカチンときた私は、 「……海翔は、されたら、誰とでもキスするんだ?」 自分でも驚くほどの冷たい声を放っていた。 「もう、しない。ごめん」 それに対して、シュンとして元気なく答える海翔。 悪いことをして、お母さんに叱られた子供みたいに……。 「もう、会わないって約束してくれる? もう今度は許さないから。今回だけだから」 「約束する。 芽依、ありがとう」 許して貰えたことにホッとしたように、 安堵の息を吐いて、私を強く抱きしめてくる海翔。 海翔のことをどうしようもなく好きな私は、 これからもこうやってなんでも許してしまうんだろうな? そう思ったら、胸がキュッて締め付けられるぐらい切なくなった。
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