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*海翔side* 芽依に泣きながら言われた瞬間、 後頭部を何かで力任せに殴られたような衝撃が駆け巡った。 何を言われたって、 反論の余地なんてある訳がない。 今更、過去の自分を悔やんでもどうしようもないけれど……。 悔やまずにはいられなかった。 そんな俺の腕の中で、 すっぽりと収まってしまう程の華奢な芽依の身体が小刻みに震え続ける。 まるで、 何かに怯えるようにして……。 俺は、芽依を泣かしてばかりだ。 芽依の傍から 俺が居なくなれば、 芽依を泣かさずに済むんだろうか? でも、 どうしても芽依から離れたくないと思ってしまう……。 「…もう…ヤダ!早…く……行って」 ここで、 芽依が言うように、 離れてしまったら…… もう、 芽依の傍に居られないと思うと、 それだけで辛くて堪らなくなる……。 俺は、 泣きながら俺の腕から逃れようと…、 胸を両手で押し返してくる芽依をただ黙って抱きしめ続けた。 「離……し…て、ねぇ、もう、離して」 暫くして、 両手の力を緩めた芽依が、 俺の服の胸の辺りを掴んだまま、 力なくゆっくりと崩れ込んできた。 俺は、芽依の身体を強く抱きしめ直した。 「どう…して、離して……くれ…ないの?」 芽依は何度も 『離して』 って、その言葉を口にする。 その度に、 胸が引き裂かれそうなぐらいの痛みに襲われる。 けど、 それは、 俺じゃなくて、 俺が傷つけてしまった芽依の痛みのような気がしてならなかった……。 でも俺は、何も言ってやれなかった。 掛ける言葉なんて見つからなかったんだ。
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