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「何?その顔。 冗談に決まってるじゃない! 良かったね。そういう子ができて」 驚いて固まっている俺の首に、 再び腕を回して自分に引き寄せながら、 クスクスと笑って、可笑しそうに言うリカにホッと胸を撫で下ろした。 ビックリさせんなよ……。 「……あぁ」 安堵の息と一緒に短い返事を吐き出した俺に、 「じゃぁ、最後にキスだけ…」 言ったと同時に、 不意打ちで唇を重ねてくるリカを俺はかわすことができなかった。 そうやって、 一方的にキスをしてきたリカから離れるために、 リカの身体を剥がそうと腰に手をかけようとしていると、 「ねぇ? いつまで見てる気? もしかして診察?」 俺の背後、 診察室の入り口付近へ向けて、 首に抱きついてたリカか冷たい苛ついたような声をぶつけた。 その声で初めて、 俺ら以外の誰かの存在に気づいた俺。 振り返った俺の視界には、 診察室から飛び出すようにして、 走り去っていく芽依の後ろ姿が飛び込んできた。 その時に、 ほんの一瞬だけ見えた横顔は泣いてるように見えた。 フッ…と前に母親が来てた時の事が頭を過り、 誤解されたと思った俺は、 「芽依っ!」 咄嗟に大きな声で叫んでいた。 芽依は、そんな俺の声に振り返ろうともしない……。
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