第1章

3/7
前へ
/7ページ
次へ
お久米の方の這った畳の上に、ベットリと血のあとが残った。 しかし、お久米の方は途中で力つきた事をさとると、 「おのれ!お小夜の方!この恨み、晴らさでおくものか!七生までも祟ってくれん!」 そう、絶叫すると、虚空を握りしめて息絶えた。 それから、間もなく、芳姫が、病の床についた。芳姫は、うなされた。 お小夜の方は、心配そうに芳姫の顔を覗きこんだ。 その時、うなされていた芳姫が、カッと目を見開くと、 「おのれ!お小夜の方!必ず、必ず、この恨み、晴らさいでおくものか!」 そう言って、母親であるお小夜の方の胸ぐらをつかんで、その顔に痰を吐いた。 その後も、芳姫の病状はいっこうに良くならなかった。芳姫は四六時中、夢にうなされ続けた。 そして、決って、 「血まみれの、お久米の方様が、鬼のようなお顔をして這って来る」 と、訴えた。 芳姫の身体はしだいに衰弱していった。 羽黒の金剛坊と言う、世に知られた行者に七日七夜、怨霊退散の護摩を焚かせたが験しは無かった。 ある日、母親のお小夜の方が重湯を飲ませようとしたが、それを手ではねのけて、 「また、私に毒を盛るつもりか!」 と叫んだかと思うと、突然、子宮から大量の出血をして、褥を真っ赤に染めた。枕辺にひかえていた医師にも、なすすべが無かった。 かくして、芳姫は昏睡状態に落ちた。 七日目の夜、芳姫は、虚空を握りしめて、 「まだまだまだまだ、許さぬぞ!もっと、もっと、もっと、苦しめて、苦しめて、苦しみ抜いて死ぬが良い!」 そう言って息絶えた。芳姫の死後、お久米の方の怨霊は、夜毎に、お小夜の方の寝所に出るようになった。 深夜、お小夜の方が物音で目を覚ますと、広い広い座敷のかなたの襖が開いた。そして、下半身血まみれのお久米の方が、 ズルッ…ズルッ… と、お小夜の方を睨みつけたまま、畳の上を這って来る。這ったあとにベットリと血がついている。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加