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お久米の方の這った畳の上に、ベットリと血のあとが残った。
しかし、お久米の方は途中で力つきた事をさとると、
「おのれ!お小夜の方!この恨み、晴らさでおくものか!七生までも祟ってくれん!」
そう、絶叫すると、虚空を握りしめて息絶えた。
それから、間もなく、芳姫が、病の床についた。芳姫は、うなされた。
お小夜の方は、心配そうに芳姫の顔を覗きこんだ。
その時、うなされていた芳姫が、カッと目を見開くと、
「おのれ!お小夜の方!必ず、必ず、この恨み、晴らさいでおくものか!」
そう言って、母親であるお小夜の方の胸ぐらをつかんで、その顔に痰を吐いた。
その後も、芳姫の病状はいっこうに良くならなかった。芳姫は四六時中、夢にうなされ続けた。
そして、決って、
「血まみれの、お久米の方様が、鬼のようなお顔をして這って来る」
と、訴えた。
芳姫の身体はしだいに衰弱していった。
羽黒の金剛坊と言う、世に知られた行者に七日七夜、怨霊退散の護摩を焚かせたが験しは無かった。
ある日、母親のお小夜の方が重湯を飲ませようとしたが、それを手ではねのけて、
「また、私に毒を盛るつもりか!」
と叫んだかと思うと、突然、子宮から大量の出血をして、褥を真っ赤に染めた。枕辺にひかえていた医師にも、なすすべが無かった。
かくして、芳姫は昏睡状態に落ちた。
七日目の夜、芳姫は、虚空を握りしめて、
「まだまだまだまだ、許さぬぞ!もっと、もっと、もっと、苦しめて、苦しめて、苦しみ抜いて死ぬが良い!」
そう言って息絶えた。芳姫の死後、お久米の方の怨霊は、夜毎に、お小夜の方の寝所に出るようになった。
深夜、お小夜の方が物音で目を覚ますと、広い広い座敷のかなたの襖が開いた。そして、下半身血まみれのお久米の方が、
ズルッ…ズルッ…
と、お小夜の方を睨みつけたまま、畳の上を這って来る。這ったあとにベットリと血がついている。
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