第九話 隣の席

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「とりあえず、考えといてくれ。無所属でもかまわない。中学が嫌なら せめて高校は陸上部に入れよ。お前の脚力は俺の宝だ。」 「寒いですよ、先生。」 「じゃあな、悪かったな。お昼御飯、食べていらっしゃいな。」 「はい、失礼します。」 先生は焼きそばパンの最後の一口を頬張り、岸をちらっと見る素振りをした。 「岸は…とりあえず、次のテスト頑張れよ。」 「はいはーい。ほら、澤ちゃん、昼飯昼飯。」 岸は先生に会釈をして俺の腕を引っ張っりながら歩き出した。 俺はその勢いでつまずきそうになったが、岸は気づいてないようだった。 「おい、ちょっと待てって。そういえば、お前チョコ貰ったの?」 「さすがに貰えないでしょ。あんなに昨日の終礼でチョコ禁止って先生言ってたしね。」 「そうだな。」 俺と岸は、出会った頃からいつもこんな感じだ。 岸が俺を導いて、俺がそれに応える。 その関係は、きっとずっと続いて行くんだ。 今思えば、そう思う。この関係が続けばきっとこの先も、俺達はうまくやっていけるはずなんだ。 そうだ、あの話をしておかなければ。 俺が岸を初めて抱き締めた、あの日のその後のストーリーを。 「…はぁ……ん……ぅ…」 「なあ、大丈夫か?」 「…うん…平気…」 「いきなり貧血って、お前そんな体弱かったっけ?」 「澤ちゃんが…あんなに強く抱き締めるからだろ…ふぅ…」 岸に耳を噛まれて、愛の告白を要求されたその後、俺は突然の連続に岸を思いのほか強い力で抱き締めすぎた結果、今の状態になっている。 俺はぐったりと玄関に横たわる岸に、肌触りの良いタオルをそっとかけてあげた。 「とりあえず、明日もう一回俺の家、来いよ。」 岸の背中をやさしく擦って、岸の顔を確認するためにゆっくり顔を近づけた。 「だめ。あんま見ないで。」 「お、おう。」 岸の体は丸くなって、俺は少し肩を落とした。 はあ。 好きなやつには、何事にも優しくしないとだな。 to be continued...
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