Act.3 契約と諦めと恋の代償

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  「断りもなくキスをするなんて、随分強引なんじゃありません?」 唇は今もぶつかりそうな場所で吐息を重ねている。 あたしがその唇に向かって不満を訴えると、彼はあたしの唇を許可なく親指でなぞった。 「そんなに強引でしたか?」 「そうね。もし歯がぶつかっていたら爆笑してやるのに、残念」 「そんな失敗はしませんよ」 「さすが蓮池さん。いいこと教えてあげましょうか?」 「いいこと?」 「女ってね、強引に押されると案外引いちゃう生き物なんですよ。理想はあくまで理想っていうか、下手したら警察沙汰になりかねませんからね。気をつけたほうがよろしいかと」 「なるほど。あなたもダメなタイプですか?」 「えぇもうドン引き通り越して悪寒が」 「あはは、面白いな」 「面白いこと言った覚えはないんですけど…」 「確かに強引な男が苦手っていう女性もいるかもしれませんね。ですが、私たちはいずれ結婚する仲です。婚約者である涼華さんにキスしたって何ら問題はないでしょう?」 「そうですね。でも、政略結婚にキスとか必要あります?」 「ありませんね」 「じゃあなぜ?」 なぜ貴方はあたしにキスしたの? 蓮池さんの目を真摯に見つめる。 するとあたしの唇に触れていた指を自身の唇へ持っていった彼は、 「あなたと恋愛したくなったと言ったらどうします?」 上目遣いにあたしを見つめて指の腹をぺろりと舐めた。 「…え?」 「恋愛です」 歯列から覗いた舌が妙に色っぽくて、あたしは思わず息を飲む。 彼の声はやけに落ち着いていた。
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