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「断りもなくキスをするなんて、随分強引なんじゃありません?」
唇は今もぶつかりそうな場所で吐息を重ねている。
あたしがその唇に向かって不満を訴えると、彼はあたしの唇を許可なく親指でなぞった。
「そんなに強引でしたか?」
「そうね。もし歯がぶつかっていたら爆笑してやるのに、残念」
「そんな失敗はしませんよ」
「さすが蓮池さん。いいこと教えてあげましょうか?」
「いいこと?」
「女ってね、強引に押されると案外引いちゃう生き物なんですよ。理想はあくまで理想っていうか、下手したら警察沙汰になりかねませんからね。気をつけたほうがよろしいかと」
「なるほど。あなたもダメなタイプですか?」
「えぇもうドン引き通り越して悪寒が」
「あはは、面白いな」
「面白いこと言った覚えはないんですけど…」
「確かに強引な男が苦手っていう女性もいるかもしれませんね。ですが、私たちはいずれ結婚する仲です。婚約者である涼華さんにキスしたって何ら問題はないでしょう?」
「そうですね。でも、政略結婚にキスとか必要あります?」
「ありませんね」
「じゃあなぜ?」
なぜ貴方はあたしにキスしたの?
蓮池さんの目を真摯に見つめる。
するとあたしの唇に触れていた指を自身の唇へ持っていった彼は、
「あなたと恋愛したくなったと言ったらどうします?」
上目遣いにあたしを見つめて指の腹をぺろりと舐めた。
「…え?」
「恋愛です」
歯列から覗いた舌が妙に色っぽくて、あたしは思わず息を飲む。
彼の声はやけに落ち着いていた。
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