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スラックスに手を入れて佇む姿は悔しいくらい様になっている。
あたしはあっさり"冗談だ"と認めた蓮池さんを怪訝に見つめた。
なるほど。
あたしはまんまと彼の冗談に付き合わされ、無意味にキスを奪われてしまったというわけか。
「どうせしなきゃいけない"結婚"なんです。ならあえてギスギスする必要もないでしょう?」
「それは分かりますけど…、本人を前に"どうせ"とか言います?」
「涼華さんの前だから言えるんですよ」
そう言って、蓮池さんはまたも背中を向けてクスクスと笑った。
あたしもスーツの背広に包まれた背中をのんびりと追いかける。
悪戯に奪われたキスを容認するわけではないが、でも彼が言ったことも一理あるな、と、二人だけの時間に身を置きながら思った。
どうせ逃れられない結婚なら、宿命なら、だったら少しでもラクな関係でいられる方がいい。
好きでもない男に愛を紡ぐなんて、そんなの耐えられないもの。
「分かりました」
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