Act.3 契約と諦めと恋の代償

24/26
1307人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
  スラックスに手を入れて佇む姿は悔しいくらい様になっている。 あたしはあっさり"冗談だ"と認めた蓮池さんを怪訝に見つめた。 なるほど。 あたしはまんまと彼の冗談に付き合わされ、無意味にキスを奪われてしまったというわけか。 「どうせしなきゃいけない"結婚"なんです。ならあえてギスギスする必要もないでしょう?」 「それは分かりますけど…、本人を前に"どうせ"とか言います?」 「涼華さんの前だから言えるんですよ」 そう言って、蓮池さんはまたも背中を向けてクスクスと笑った。 あたしもスーツの背広に包まれた背中をのんびりと追いかける。 悪戯に奪われたキスを容認するわけではないが、でも彼が言ったことも一理あるな、と、二人だけの時間に身を置きながら思った。 どうせ逃れられない結婚なら、宿命なら、だったら少しでもラクな関係でいられる方がいい。 好きでもない男に愛を紡ぐなんて、そんなの耐えられないもの。 「分かりました」
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!