Act.4 無意味に色づく赤い花

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  そして「取り乱してしまい申し訳ありませんでした」と、蓮池さんに向けて頭を下げたとき。 「――響さん」 ふと後方から聞こえてきた声に「あ…」と、いち早く気づいた響がわずかに目を大きくさせて戸惑いを零した。 「お取り込み中、申し訳ございません。会長からお電話が入っているのですが、いかがなさいますか?」 あたしも咄嗟に声のあったほうを見て、すぐさま言葉を失う。そこには携帯を手にした梓が一歩離れたところに立っていたからだ。 正直、なんで…と思った。 「お取り込み中でしたら、こちらからかけ直す旨を伝えますが」 「いや、出るよ」 響は梓からケータイを受け取る。 そして蓮池さんに向かって「ちょっと失礼します」踵を返してあたしたちから距離を取ると、父からだというケータイを耳に添えた。 代表としての風格を取り戻した横顔は厳しささえ垣間見える。
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