Act.4 無意味に色づく赤い花

11/53
前へ
/246ページ
次へ
  もちろんあたしの相手をしている暇などないことは分かっている。 最初に言っていたように、梓は響の秘書として参加しているのだ。 たとえあたしが"叶"の姓を背負っていたとしても、仕事が絡めばただの"お嬢様"でしかない。肩書きとプライドの寄せ集めみたいな集団に、ニコニコと華を添えるだけのお人形みたいなモノだ。 しかし、それでも、他人行儀な呼び方とか、違和感がある口調だとか、仮にも幼馴染に対して興味の欠片すら感じられない態度があたしの胸を締めつけ、痛みを残す。 「涼華さん、これからまた少し席を外しますが宜しいですか?」 すると梓と一言二言交わしていた蓮池さんが、ふとあたしのほうへ向き直って言った。 「実はもう少し挨拶回りが残ってるんです。一人にしてしまいますが大丈夫ですか?」 「え…?えぇ、大丈夫です。ここには弟もおりますし、気にせず行ってきてください」 「すみません。ありがとうございます」 思いがけず焦りそうになったあたしをよそに、蓮池さんはまた参加者の中へ埋もれにいった。その後ろ姿はすでに胡散臭いオーラを振りまいている。 しばらくその背中を見つめていると、ふと「彼だったんですね」と、梓は抑揚のない声で沈黙を破った。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1312人が本棚に入れています
本棚に追加