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Act.1 拗らせた初恋のヒミツ
青白い月が眠らない街を朧げに照らしている。
天を突くようなビルに阻まれた月はネオンの眩しさに負け、散らばっているはずの星たちは明るみの中で霞んでしまっている。
あたしは千鳥足で人混みの中を進み、ほろ酔い気分でバッグの中からケータイを取り出した。
ディスプレイを見つめる視点は定まらないが、でも繋がりたい相手はこの親指が覚えている。
「出るかしら」
常に履歴の一番上を陣取っている相手。
終電を逃した日はいつだってコイツを呼び出す。
あたしのおぼつかない親指はリダイヤルを探し、喧騒の中に無機質なコール音を響かせた。
速くなる鼓動にはいつも気づかないふりをする。
≪――…はい?≫
そして6回目のコール音が鳴り終わったあと、耳にあてたケータイから不機嫌な声が聞こえてきた。
相手がどんな顔をしているのか想像出来て可笑しくなったあたしは「もしもーし!」と、わざとおちゃらけた声で答える。
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