Act.3 契約と諦めと恋の代償

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Act.3 契約と諦めと恋の代償

  お酒を断ってまで綺麗な思い出で終わらせようと思った夜は、願いとは裏腹に今までで一番最低な夜となった。 しかし、いつまでも塞ぎこんでいるようなあたしではない。良くも悪くも引きずらない。胸を張って言える長所のひとつだろう。 そんなあたしでも決別を突きつけられた夜は感慨に浸って枕を濡らしてしまったが、でもそんな感傷も夜が明けた頃には、すっかり笑い飛ばせるまでになっていた。 「さすがは涼華様。お着物もとてもお似合いになりますねぇ」 そして見合い当日を迎えた日曜日。 いつもならベッドでまどろんでいられる午前中も、今日に限っては、お見合いの準備に追われて慌ただしかった。 「…幸枝さん、ちょっとキツくないかしら?」 「あら、お着物なんてこんなもんですよ」 「そうは言っても…」 グッとさらに締められる帯。 腹の底からせり上がってくる重苦しさに朝食を食べてしまったことを激しく悔いる。 お見合いはとある高級料亭の一室を貸し切って行われる予定だ。 着付けのために朝早くに起こされたせいもあって、滅多に着ることのない振袖に腕を通したあたしは疲労感たっぷりに息を吐いた。
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