長いあいだ

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「お父さん、今まで言えなかったことを手紙にしました。……聞いて、ください」 宴もたけなわ、ドレスをまとって一段と美しくなった娘は、震えそうな声でわたしに書いた手紙を読み始めた。 若い夫婦の門出を祝福してくれているかのような、柔らかな日差しの穏やかな休日。 今日、娘が嫁ぐ。 たった一人の、男手ひとつで育てた可愛い娘。 二十三歳の若さだ、多少の心配はあるが……。 昨夜、部屋で荷物をまとめている間に自然と手に取ってめくったアルバムの写真を思い浮かべる。 覚束ない足取りで部屋を歩き出した日は、慌ててインスタントカメラを買いに走った。 可愛いお弁当がいいと駄々をこねられて、慣れない手でこしらえた小さな弁当。 手を差し出すとぎゅっと握り返してきた小さかった手もすぐに大きくなり、やがて繋ぐこともなくなった。 中学に入ってからは話も減った。 年頃になると帰りが遅くなることが増えて、何度言い争いになったろう……。 それでも、 「ありがとう、……お父さん」 頬を涙で濡らして言葉を詰まらす娘の姿に、目頭が熱くなるのを覚えた。 ああ。 君の優しい目は、君の母親によく似ている。
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