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「いやあ!!キラが死んじゃう!!」
僕に魔物の血を掛けた、ここの農場主の一人息子は怯えて走り去ってしまった。
残されたのはパニックを起こしているラクレットと、虫の息の僕だけ。
治せないとなると、僕に出来るのは呼吸を確保するぐらいだ。
ラクレットは泣きながら外に走り出ていく。
…じきにあのインチキ司教を連れてくるだろう。
その隙に、僕は自分の右腕に宿っているはずの存在の手触りを確かめる。
もちろん痛みで苦しい事に変わりはないから、感触を辿るのが精一杯だけど。
うん。
いるみたいだ。
今度はもっと早くあなたの助言が欲しいよ。
「大丈夫かね!?これは…」
「キラは助かりますか!?」
「分からない。しかし、私にやれることはやってみよう。…ここでは祈りが通じづらいから教会へ運ぶよ?いいね?」
ラクレットが真っ赤な顔で泣いたまま、こくりと頷く。
ああ。
やっぱり可愛いな。
僕は司教に抱えられたまま、もう何度も見た教会の祭壇の前へと運ばれる。
「君は懺悔室に入っていなさい。」
「でも。」
ラクレットが戸惑っている。
「これから私は君の弟さんに酷い事をする。君のような子供には耐えられないだろう。入っていてくれないか?」
ラクレットはそれでも動かず、薄目を開けている僕の顔を見た。
僕が小さく頷くと、両手をギュッと握ってから懺悔室の方に歩いていく。
パタンと扉が閉まる音がしてから、司教は僕を見降ろす。
「…完全に治せるかどうかは分からないが、全力は尽くす。……痛いかも知れないが我慢してくれ。」
僕が頷くと、司教は僕の口に布を突っ込んでから、指先で魔物の血が掛かった右手の皮膚を剥がそうと試みる。
分かっている事象だけど、やっぱり物凄く痛い。
気を失わないのは、無理か、な。
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