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駅まで徒歩五分。コンビニまで徒歩二分。最寄りのスーパーまで自転車で五分。かなりの好立地の十階建てのマンションの一室が、俺の仕事場だ。いや、仕事場であり、居住空間だ。
リクライニングソファにもたれ掛りながら、五つのモニターを見る。デイトレードではない。だからモニター内で数字がめちゃくちゃに動き回ったりはしていない。
モニターの中で動き回っているのは数字ではなく、人だ。
真ん中のメインモニターは俯瞰から、右の二つのモニターは、後方一メートル、後方五メートルの位置から、画面の中で動き回る三人を常に映し出している。左の二つのモニターには、三人の『プレイヤー』のステータスが表示されて
いる。
「斎藤、起きてるか?」
俺は画面から目を動かさずに、左斜め後ろの斎藤に話しかける。
斎藤は首から上を炬燵布団から出し、「おうよ~」と気のない返事をした。炬燵布団と同じ色のちゃんちゃんこを着て、首から下を炬燵に隠すその姿は、炬燵と同化しているようにも見える。
スプーンと皿がカツカツとぶつかる音が聞こえる。先ほどからスパイスの香りがしていると思っていたが、どうやら斎藤はレトルトカレーを食べているらしい。
「桜城、あいつら三階まで来やがったな。損害でかいんじゃね?」
桜城とは俺のことだ。
「いや、損害は気にしなくていい」
斎藤のモニターにはプレイヤーのステータスは映し出されていない。さっきから俺の顔のにやにやが止まらない理由も分からないだろう。
「あぁい了解」
モニターに映る三人の男。全員知っている顔で、知っている格好だ。
名前はいちいち覚えてはいないが、この三人は俺と同じ高校の生徒だ。確か隣のクラスだったな。
このダンジョンの人数制限は八人。レイド用のダンジョンだが三人で挑んでくるところを見ると、相当腕が立つか、報酬に眼がくらんだ馬鹿。
装備を見る限りは前者だが、今までの戦闘を見る限り、後者だ。
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