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「おう斉藤! 起きろ!」
マンションの駐車場に止まっている、ワゴン型の青いインプレッサを揺らす。反応が無い。
仕方なくトランクを開けると、羽毛布団に丸まった斉藤の頭が見えた。
「おい! 八時二十分だぞ! 起きろ」
ちなみに高校生の斎藤が車の免許を持っているはずがない。運転は出来ないので、この車は斎藤の寝床だ。そのためだけに買ったものだ。
「お、桜城。今なん時?」
「八時二十っつってんだろ! 置いてくぞ」
学校は八時四十分から始まる。いつもギリギリだ。
斉藤は布団の中でもぞもぞと動き、ゆっくりと布団から出てくる。寝ているときは上下スウェット姿なのに、布団から出てくるときちんと制服姿になっているのはいつ見ても感心する。どうやってんだろうな。あれ。
斉藤は車から降りると、靴を履いて、歯ブラシと歯磨き粉だけ持って歩き出す。駐車場を抜けた先の小さな公園の水道で歯ブラシを濡らし、歯磨き粉を歯ブラシが見えなくなるほどべっとりとつけ、口にくわえた。
普通の歯磨き粉なら辛くて大変だろうが、斎藤の歯磨き粉はお子様用のいちご味だ。たっぷり付けたほうがおいしいらしい。
学校までは徒歩五分から八分ほどだ。この差は信号に引っかかるか否かによるもので、今日は運悪く引っかかった。
斉藤は歯を磨きながら登校するわけだが、さきの公園を覗くと、学校の水道まで水は無い。つまり信号に引っかかると彼は八分間もの間歯を磨き続ける。
故に、登校中俺たちの間にほとんど会話は無い。喋るのは学校に到着し、斉藤が口をゆすいでからだ。
何事も無く学校に着くと、なにやら騒がしいことになっていた。
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