第1章

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 一瞬意識が飛び、目を開けるとそこは見慣れた正面玄関だった。  何度やっても凄いと思う。俺は自宅のパソコンの前にいたはずなのに、もうダンジョンの中にいる。今では世界中で当たり前になっているが、このシンクロ技術は本当に凄い。 「すごいな……本当に忠実に再現されてる」  今回のダンジョン。噂には聞いていたが、攻略に赴くのは初めてのことだった。  正面玄関の扉も柱も下駄箱も、俺の通ってる私立高校そのものだ。 「天田! おっと、ここじゃ違ったな。ヘヴン!」  後ろから俺を呼ぶのは大矢。声を聞くだけで分かる。チビのくせに声だけは異常にでかい。 「アーロン。あとの四人はどうした?」  俺がダンジョン攻略する時は、絶対に大矢が一緒だ。大矢はソロで行くこともあると言っていたが。  ちなみに俺たちが『ヘヴン』と『アーロン』と呼び合っているのは、コレがお互いのハンドルネームだからだ。普段苗字で呼び合っているため、ゲームの中くらいはハンネで呼び合おうと決めたのだ。そのほうが臨場感が出て面白い。 「来たみたいだぜ」  大矢が親指を後ろに向けると、そこには歪が生じていた。三人が同時に転送されてくる。 「おせぇよ。とりあえず自己紹介しろや」  大矢は物凄い短気で喧嘩っ早い。チビのくせにだ。さらに声がでかいものだから、気の弱い連中はすぐにビクビクしてしまう。  三人もすこしオドオドしていた。 「あ、加藤です。ハンネはトレイル」  背の高いペンギンのような顔をした男だ。   こいつが加藤か。課金量が半端じゃないという噂は常々聞いている。確か家が地主とかで、そうとうなボンボンだ。 「加藤です。ハンネはスパーダです」  メガネをかけたたまねぎのような男。 『THE良い所の坊ちゃん』っていう印象だ。ていうかこいつも加藤かよ。紛らわしい。 「佐藤だ。ハンネはよしろう」  ぼてっとしたナスみたいな顔の男だ。 こいつは佐藤か。育ちがよさそうとは到底思えない風貌だ。  ペンギン顔がトレイル。タマネギ顔がスパーダ。ナスビ顔がよしろう。加藤加藤佐藤なんて紛らわしくて覚えられないから皆ハンネで呼ぶことにしよう。
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