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「お疲れ」 「お疲れさま」 居酒屋の個室に向かい合って座り、互いのジョッキの縁を軽くぶつけ合う。高校生のときは、二人とも地味で真面目なグループに属していたので、当然飲酒などしたことがなかった。 彼とこうして酒を酌み交わしていることに、年月の経過を感じ、ささやかな感慨を覚える。 「雪下、仕事は何してんの?」 「文房具の、営業」 「雪下が営業……」 「似合わないかな?」 「いや、案外合ってるかも」 どうかな、と僕は笑った。 終着点のない、他愛ない話が楽しかった。 「そっちは?」 「俺? 俺は一応銀行勤め」 「え……、すごいね」 「すごくないって。大した給料もらってないし。あ、そういえば、四谷って覚えてる?」 急に四谷の名前を出され、僕は内心たじろいだ。
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