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なっちゃんと別れ、会社を出る頃には、辺りは暗くなり始めていた。 藍色に色付き出した空が綺麗で、控えめに光を放つ星が綺麗で。 僕はふと、四谷に会いたくなった。 言いたいことがあるわけでもなく、したいことがあるわけでもなく。 何をするでもなく、ただ側にいられたらなと思った。 その日僕が四谷の塾の最寄り駅で下車したのは、ほんの気まぐれだった。 四谷が普段降りる駅で降り、彼が以前話していた駅構内のカフェへと入る。休日だが、さほど混んではいない。 とりあえずカフェラテを注文し、カウンターで受け取ってから席に着いた。 いろんな人達が、店のすぐ外の通路を通過していく。 学校名入りのスポーツバッグを肩から下げている、高校生たち。仕事帰りと見られる、スーツ姿のサラリーマン。ゆっくりとした足取りの、ご年配の女性。 四谷が、普段目にしているかもしれない景色。 どんなにたくさんのひとがいても、今会いたい相手はたったひとりなのだと思うと、胸がきゅうっと苦しくなる。
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