2711人が本棚に入れています
本棚に追加
なっちゃんと別れ、会社を出る頃には、辺りは暗くなり始めていた。
藍色に色付き出した空が綺麗で、控えめに光を放つ星が綺麗で。
僕はふと、四谷に会いたくなった。
言いたいことがあるわけでもなく、したいことがあるわけでもなく。
何をするでもなく、ただ側にいられたらなと思った。
その日僕が四谷の塾の最寄り駅で下車したのは、ほんの気まぐれだった。
四谷が普段降りる駅で降り、彼が以前話していた駅構内のカフェへと入る。休日だが、さほど混んではいない。
とりあえずカフェラテを注文し、カウンターで受け取ってから席に着いた。
いろんな人達が、店のすぐ外の通路を通過していく。
学校名入りのスポーツバッグを肩から下げている、高校生たち。仕事帰りと見られる、スーツ姿のサラリーマン。ゆっくりとした足取りの、ご年配の女性。
四谷が、普段目にしているかもしれない景色。
どんなにたくさんのひとがいても、今会いたい相手はたったひとりなのだと思うと、胸がきゅうっと苦しくなる。
最初のコメントを投稿しよう!