23

9/14
前へ
/300ページ
次へ
不意に目の前が真っ暗になったような錯覚がして。気付くと僕は、彼に向かって手を振り上げていた。 乾いた音と、右手に感じる微かな痛み。 人に手を上げたのは、それが生まれて初めてのことだった。 「……若葉」 四谷の声。 この声が、いつだって僕をおかしくするんだ。 「他のやつとは別れたって、言ったじゃないか」 初めてついでに、剥き出しの感情を吐露すると、四谷が困ったように眉根を寄せた。 「若葉、彼は違う」 「もういい、聞きたくない」 解っている。四谷には、僕に責められる謂われなどない。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2711人が本棚に入れています
本棚に追加