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次会うときには素直になろうと思っていたけれど、遅かったのかもしれない。 どんどん気持ちが下降していくのを止められずにいると。 「村上さん?」 僕の知らない声がして。 そちらに目を向けると、大学生くらいの年頃の青年が、きらきらとした笑顔を浮かべて立っていた。 「さとーくん……?」 ああ、彼の知り合いなのか。 妙に冷めた頭で僕は考えた。 「こんなところで会うなんて、思いませんでした」 「う、うん……」 二人が話をする傍らで僕は、あることに気が付いた。 村上さん、って。 確か……。 「ああ、すみません。お邪魔してしまって」 ぺこりと、僕と四谷に頭を下げる青年。 四谷がアイコンタクトを取るように視線を送ると、「村上さん」はそれに答えて言った。 「彼は僕の同居人です。佐藤君、こちらは僕の上司の四谷さん」 上司。 やっぱりそうだ。 四谷の塾で事務をしている「村上さん」。 直接お会いしたことはなかったが、四谷の口からその名前を聞いたことがある。
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