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動揺は、一旦胸の奥にしまい込んで。
村上さん、と僕は言った。
「お見苦しいところをお見せしてしまって、すみませんでした。あなたに、失礼な発言も……」
深く、頭を下げる。
街中で醜態を晒し、それに巻き込んでしまった罪は重い。
「いいえ。気になさらないでください。こちらこそ、無断で恋人をお借りしてしまってすみませんでした」
違うんです、と僕は思う。
僕が本当に四谷の恋人だったなら、四谷を疑ったりはしなかった。だから。
「彼は、恋人では……」
「若葉」
四谷が、間に割って入る。
「この後、時間あるか?」
「……うん」
「ちゃんと、話がしたい。うちに来て」
分かった、と頷くと、彼は村上さんと二、三言葉を交わし、僕の手を引いた。
「行くぞ」
「四谷……」
手を離したら僕が逃げ出すとでも思っているかのように、駐車場に着くまで僕の左手は四谷に拘束されたままだった。
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